建築士ドットコムQ&Aサイトにようこそ。ここではコミュニティメンバーに質問したり、回答を得ることができます。

【エッセイ】都会の野武士、そして建設業界への女性進出

+2 評価

 用事を済ませて帰るべく駅を乗り継いでいると、品川駅ホームで印象的な光景を目にした。20代後半と思われるその男の周囲には、異質な雰囲気と空間があり、人々も少し距離を置いていた。

 バランスの取れた体格のその男の出で立ちは、作業服にスニーカー、頭にはキャップを被りリュックを背負っていた。異様な雰囲気は使いこなされたリュックだった。背負ったリュックの上からは、ノコギリらしき柄が半分ほど出ていた。作業服やスニーカーはくたびれてはいるものの、決して不潔な感じはなくバランスのいい体格のせいか、むしろスマートさを感じさせるものでした。じっと、電車が来るのを待つその立ち姿は、知性と意志の強さを感じさせ、私には現代のそして都会に現れた、背中に刀を背負った野武士のように見えた。

 彼が帰る先に誰が待っているのか、などと下世話な興味を持ちながら眺めるうち、建設業界の女性の進出はどれくらいなのだろうか、彼に職場(現場)での出会いはあるのだろうか、などと考えていた。

 平成27年の国交省の「建設業における女性の活躍推進に関する取組実体調査」では、H26年の女性技術者採用率が8.1%、女性技能者採用率が2.5%、H27年の同採用率がそれぞれに、9.1%、3.8%と増加していますが、全体に占めるH27年の就業者比率では、女性技術者が4.5%、技能者が4.2%とまだまだ少ない状況です。

 調査の回答は、100人未満のいわゆる小規模建設業が87.7%を占めており、女性活躍支援の取組みを行っていない比率の70.4%、女性の採用や登用に関する数値目標を設定していない比率の83%とほぼ重なる数値で、建設業の女性就業者比率の少なさは、小規模建設業の対応が大きく影響していると推測されます。

 一億総活躍社会、そして男女共同参画社会と謳われてはいるが、建設業界における就業者数が延びていない状況では、女性技術者や技能者の増加促進が、建設就業者数を維持していく有効な手段であるのかもしれません。

 女性の活躍支援としては、産前・産後、そして育児の休業制度が大きなものとして取り挙げられており、重要なファクターだと思います。一方、トイレや更衣室、さらには女性専用の休憩室など、生理的な嫌悪感を無くす取組みの方が現実的な問題として大きいのではないだろうかとも推測しています。建設業界で極端に少ない女性就業者数比率は、活躍支援システムの有無や体力差によるものよりも、生理的な嫌悪感が大きな問題のように感じるのです。

 H26年には、建設業における女性活躍の場の拡大へのロードマップが報告され、女性の建築技術者と技能者をあわせた就業者比率3%(H24年の総務省統計)を、5年間で倍増の6%にする計画が発表されました。日本建設業連合会、そして同連合会が中心として推進している「けんせつ小町」などはこれを受けて、企業に女性活躍支援の取組を働きかけています。先のH27年の統計資料では、その効果が出ていると言えますが、大半を占める小規模建設業者への対策が取られているとは感じません。

 以前、テレビのドキュメントで見た女性の大工や左官屋が受け入れられるくらいには、社会の価値観は変わってきているのでしょう。一方で、冒頭のスマートな野武士を見る時、彼のような青年が増えることで、生理的な嫌悪感を無くす職場改善が自然と進むのではないだろうか、と思えるのです。3Kなどと屈辱的なイメージを払拭させ、真に女性にも職業の選択肢のひとつとして認識してもらうためには、建設業界と共に業界に身を置く一人ひとりが価値観を変えていく努力が必要なのでしょう。それが、女性の建設業界への進出を促進させていくと感じています。

 品川で見た光景は、建設業界で働くこれからの職人の未来像を予感させるもので、心の中でにエールを送りました。しかし、ノコギリはいけないかもしれませんね。危険すぎます。いつか作業服の野武士に女性が寄り添う光景を願って、無事帰宅しました。

質問 Oct 31, 2016 公開 提案 事務局 (7,800 ポイント)

ログインまたはユーザー登録してから回答してください。

...