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【エッセイ】建設設備技術遺産って知ってますか?

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ユネスコで登録される世界遺産や日本伝統建築物の保存はよく知られた存在で、それ以外では日本モダニズム建築物の保存なども時折話題に挙がっていますが、建築設備技術者協会が主催している「建設設備技術遺産」というものがあるとは知りませんでした。

建築設備技術者協会では、「建築設備技術遺産」を、建築設備における技術や技術者の歴史的な足跡を示す事物・資料とし、建築設備技術の進歩や発展において重要な成果を残したもの、あるいは生活、経済、社会、地球環境、技術教育や技術遺産に貢献した建築設備技術のいずれかとしています。

この協会の認定一覧を見てみると、設備には疎い私でもいくつか興味を引くものがあります。まず何よりも、その第一号認定が、建設設備ポケットブック、および空気調和ハンドブックと言う点です。どちらも、井上宇一氏の著で、現在も氏の設備研究所で管理・保管されているようです。内容は、氏が総合建設会社で設備設計に従事して得た知識、その傍ら海外文献から得たデータなどを手帳に書き取って技術資料にしていたもので、単位換算表、資材・機器諸元表、計算式、空気線図、さらにはそれらのコストも記されているようです。なお、作成日は1949年2月8日となっており建築基準法の制定よりも古いものです。

建築設備ポケットブックが正式に発刊されたのは1952年で、以来60年以上に渡って発刊され続けられたのは驚きで、1956年に発刊された空気調和ハンドブックでは、20万部のベストセラーになったとのことです。単位換算や機器諸元表、そして計算式などを調べる時のポケットブックの利便性は、技術者であれば容易に推測することができ、必需品であったろうことも理解できます。

次に興味を引いたのが、巡洋戦艦「金剛」(1913年8月13日竣工)に搭載されていた戦艦用ボイラーを建物の暖房用ボイラーとして転用されたヤーロー社のボイラーです。英国で開発され戦艦から建物への転用は、建築設備技術が造船技術に負うところが大きかったことの現れでもあります。平成19年に経済産業省の近代化産業遺産、平成20年には国立科学博物館の重要科学技術資料にも登録され、現在は呉市海事歴史科学館に展示されているとのこと。

次が、「UR集合住宅歴史館」に一部を移築復元されている同潤会代官山アパート(昭和2年入居)のガス・水道や水洗便所、蓮根団地(昭和32年入居)のダイニング・キッチンの原型や各住戸の木製風呂桶、前川國男の設計した晴海高層アパート(昭和33年入居)のステンレス・プレス加工による流し台、そして公団では初めてのエレベーターがあります。いずれも、現代とは比べ物にならないほどのものですが、建築・設備の近代化への必要なステップだったのでしょう。

その他にもたくさんありますが、最後に東京オリンピック(1964年)に向けて建設されたホテルニューオータニに設置された浴室ユニットに触れておきます。開発は1963年7月にTOTO内に設けられたプロジェクトで始まり、8月に試作品ができ12月には検証が終わり採用に至ったとのことで、その開発や商品化のスピードには驚かされます。まさに、国家の威信をかけたプロジェクトだったのでしょう。現在、この初代の現物がTOTOミュージアムに移設され一般展示公開されています。

これらの遺産が、進化しながら現在に残り、快適な生活の必需品となっていることを考えると、現代の新たな設備として遺産に残るものは何かと想像してしまいます。思い浮かんだのは、洗浄便座でしたが、すでに国産初のTOTOの初代ウォシュレットが遺産として登録されていました。ソーラパネルやガス燃料電池システムは候補に挙がるかもしれません。設備機器の進歩は著しく、国が進めるZEH関連の設備機器などは一層の進歩が予測されます。果たして、近い将来にどのような設備技術の進化があり、後年に残るのはどのようものなのか、自身では決して見ることの出来ない50年後の未来図でも書いてみようかな。

質問 Aug 20, 2016 公開 提案 事務局 (7,800 ポイント)

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