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【エッセイ】接合金物のゆくえ

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ここで言う接合金物とは、日本木造住宅の伝統である仕口・継ぎ手に用いられる複雑な加工を補強するものではなく、スリットや貫通穴などの単加工された材端部を金物のみで接合するものを言います。

接合金物が生まれた背景には、大工職人の高齢化と減少に対して、生産性の向上や量の増大を求めた供給側の事情があり、プレカット工場の普及も大きく影響しています。1985年の労働者人口が80万6千人弱に対して2010年には39万人強とほぼ半減しており、2005年に比べても33%減となっている状況でのことです。

金物工法が知られてきたのは、1990年から(財)日本木材・技術センターが始めた合理化認定制度が大きく影響しています。この制度は、地域の在来木造住宅の担い手である工務店の振興を目的としたもので、当時の建設省の後押しで進められました。また、1995年の阪神淡路大震災で通し柱が加工部分で中折れしている状況から、接合部の断面欠損の少ない金物工法の優位性が認められました。しかし、金物工法が広く知られるまでには十数年かかり、現在もなお十分にオーソライズされたとは言えません。

2000年ごろには、接合金物を利用した木造の門型ラーメンが出始めました。柱と梁の接合部のモーメント抵抗を弾塑性回転バネとして運用するもので、金物工法の出始めのように各社がオリジナリティーと優位性を競って実物試験を行いました。しかし、法律上や計算上の制約が多く容易に運用できるものとは言えません。いずれにしても、合理的に金物工法を運用するためには、応力計算が必要で専用のCADが必要となり、金物工法の普及にはCADの開発や普及も大きく影響しています。

現在、在来木造住宅の中での金物工法は20%ほどと言われていますが、ある大手ハウスメーカーではオリジナルの金物工法が昨年度末で、前年度の40%から70%まで伸びたとのことですから、感覚的には都市圏での普及率は30%を超えているのではないかと感じています。

金物工法には、ハウスメーカーや金物メーカーによってその供給グループを分けることが出来ます。

1.ハウスメーカー+オリジナル金物+専用CAD+専用プレカット工場
2.金物開発メーカー+住宅供給企業+汎用CAD+各専用プレカット工場

上記以外にも中間的な位置づけのものもありますが、基本的には2つのグループになります。1では販売計画に合わせて、自社プレカット工場や協力プレカット工場を確保し、販売から供給までをハウスメーカーが主導しており、クローズドの体制です。2では住宅供給企業が数ある金物工法から選んだ工法で販売し、各金物工法専用のプレカット工場に加工依頼しており、金物工法としてはオープンな体制です。1の場合は安定した普及が望める反面、おおきな普及は期待できません。一方、2のオープンな金物工法も、それぞれの金物工法に対応したプレカット工場が限定されるため、大きな普及には繋がっていません。いずれ淘汰され、プレカット工場の汎用性が拡大した時には、大きく普及に繋がるかもしれません。いくらオリジナリティーのある金物であっても、対応したプレカット工場が限定されていては、その工場の生産能力以上に販売することができないのです。つまり、現在のオープンな金物工法は、プレカット工場の陣取り合戦に似ています。

現在でも、新しい金物の開発が進んでいる言われていますが、金物の開発費用は膨大で、柱頭・柱脚接合部や梁接合部の金物は、少ないものでも10種類前後になり、それらの試験・認証に要する費用は数千万にものぼります。従って、よほど経営基盤が整っていないと開発を継続することは難しく、継続できなければ、やがては淘汰される運命にあります。それでも、金物工法の合理性や社会的背景から、まだ普及する余地を残しています。一方で、かつて熟練大工が加工した複雑な仕口・継ぎ手がプレカット工場に委ねられたとしても、あの複雑な加工の合理性と美しさは残すべきだと考えるのです。そして、完成すれば見えなくなる仕口・継ぎ手にも美しさを求める日本人の気質が変わらない限り、残ると思っています。

質問 Aug 4, 2016 公開 提案 事務局 (13,170 ポイント)

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