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【エッセイ】実大震動実験から見る住宅の構造耐力

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日本には住宅の実大震動実験をできる施設がいくつかあります。中でも兵庫県三木市にある世界最大のE-ディフェンスが有名です。地震大国ですから当然かもしれません。では、実際にどのような実験が行われているのでしょうか。木造2階建て住宅の場合で説明していきます。余談ですが、振動実験ではなく、震動実験と呼ばれるのは、地震動に対する実験と言う意味合いが強いからだと思います。

震動実験が行われる際に、震動台に載せる実験住宅には大きく分けて2種類あります。一つは住宅を仕上げまで完成させて行う場合、他方は外壁や内装等の仕上げは行わず、構造躯体だけで行う場合です。リアルさから言えば、全てを完成させて行う方がいいのですが、住宅の基本的な構造性能を確認するために、構造躯体だけで実験するケースの方が多く見られます。しかし、この仕上げを含めるか否か、が実験結果に大きく影響しているのです。

住宅を仕上げまで完成させて震動台上で実験を行う場合、2階床には人や家具の荷重を想定して建築基準法で定められた地震時の積載荷重600N/m2(約61kg/m2)で計算した重量を鉄板などを使い負荷させます。また躯体だけの場合には、内外壁や床・天井などの仕上げ材などを想定した固定荷重を積載荷重にプラスして同様に負荷させます。従って、全重量的には双方とも概ね同じとなります。しかし震動実験結果では、仕上げまで完成させた住宅の方が高い耐力数値をだすのです。理由は、内外の壁や床の各仕上げ材にも耐力があるからです。これらは相応に硬く、ビスや釘で止められていますから何らかの耐力はあるはずで、当然の結果と言えます。

建築基準法における構造耐力の確認方法に壁量計算があります。これには、床の仕上げから天井まで、あるいは開口部上下に貼られた内装プラスターボードなどの壁(雑壁)は壁量計算上の耐力壁とは見なされていません。しかし、実はこれらの雑壁の耐力は基準法では既に盛り込み済みなのです。つまり、壁量計算で算出した必要な耐力壁に、これらの雑壁の耐力をプラスして初めて基準法で想定している地震に耐えられる仕組みになっているのです。そしてこの雑壁の耐力は、基準法で想定している地震力に必要とされる耐力の1/3にもなると言われています。しかし、これでは詐欺みたいなもので、木造軸組住宅の曖昧さを生んでいる原因でもあります。新築して20数年経って、子供の独立に合わせてリフォームし部屋の出入り口を変えたら、地震に対する耐力が下がったなどと言うこともあり得るのです。一方で、品確法が整備され、これらの雑壁を耐力壁として算出する方法が明確になりましたが、雑壁を算入することで、地震耐力の余力が減ると言う側面もあります。実大震動実験でこれら雑壁の耐力も実証されましたが、まだまだ雑壁に対する一般認識は十分とは言えません。品確法においても雑壁は余力耐力として残しておき、耐力に算入すべきではないと考えます。それが、将来のリフォームの自由度を上げ、ひいては住宅の寿命を延ばす方法の一つでもあります。

地震に対する耐力の問題は、阪神淡路大震災後に大きく話題になり、耐力壁部材の見直しや増量で住宅を硬く固めることに努めました。その実証として実大震動実験を各社が数千万円と言うコストをかけて行い、その耐力や強さを競い合いました。構造躯体に、まるで脳波測定のように貼られた何百枚もの歪みセンサーから得られた震動時の挙動データは学術的な論文になり、今まで曖昧だった住宅性能を確認することもできました。これは住宅にとって大きな進歩だと思います。また同時期に、免震構造が開発され住宅にも取り入れられるようになりましたが、そのコストや設置条件などから一般住宅では普及せず、最近では制振装置を取り付けた住宅が増えてきています。私感ですが、住宅の構造躯体を強く硬くするのは、今の基準法や品確法で十分なレベルまできているのではないかと思います。品確法の耐震等級の最高レベルで設計された住宅は、阪神淡路大震災の震度7でも倒壊することなく、それ以上の性能であることを実大震動実験では示しています。今後は、その強く硬い住宅に地震による揺れそのものを制御する制振装置などを付加する方向が正しいのではないかと思っています。

質問 Jun 11, 2016 公開 提案 事務局 (7,800 ポイント)

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